『Run Rabbit Run』 トップページへ戻る
第20話:エスカレート






 コンビニの夜勤のバイトに行った。そこには短髪のヒョロッとした男が立っていた。新人のバイトかと思い、

「どうもよろしく」

と言うと、それはメタル君だった。2人で品出しをしている時にメタルが重い口を開いた。

「オレ今度、就職すんねん」

オレは、なんと言ってイイかわからず

「おう、がんばれよ!」

などと訳のわからない返事を適当にした。いったい何をどうがんばれと言うのだ? オレには見当も付かなかった。
店内にはゲレンデがどーの、とかいうアホな唄が流れる以外は、いつもに増して静まり返り、ケダルイ雰囲気が漂っていた。 さすがにその日はエロ本を読む気も起きなかった。考えて見れば、周りの奴もほとんど結婚したり、ガキができたり、就職したりして、 中身はどーあれ、形はみんな大人になっていくようだった。
たしかに他人と自分は違うし、それが特別羨ましい訳でもないが、いったいオレにはこの先なにがあるんだ? 廃棄処分の菓子パンで空腹を満たして、他人の部屋に居候して太陽にも全く当たらず、車1台持てず、彼女の1人すらいない。 おまけに正義の味方気取りだ!

それから先は考えるのをやめた。そしてここまでなら、いつも考えることだというのもわかっていた。もう若さをウリにするほどは若くない。 しかし人間はただ生まれて、そして死んでいく、そんな風には思いたくなかった…。まぁ、それが原因といえば原因か…。 そして、つまり、そんな自分の思考回路の傾向すらも、とっくにわかっていた。

 翌日、全日本復讐サービスのミーティングがあった。といってもただダベってただけだ。こないだの一件以来、 暴力に目覚めた3人はもっと過激な方向に進みたがっていた。

「あれこそが本来のオレ達の姿だよ!」

「だな! もっとエグい相談だけ受けて、料金吹っ掛けてやろうぜ! 最近客なんて1人もこねーじゃん!」

「モウ、ケツダスノモ、クソスルノモ、ゴメンデス!」

オレの予想通りになってきた。その内コイツらはパクられて終わりだ。一生クサイ飯なんてオレはゴメンだった。荒井が絡んできた。

「オイ!おまえどーすんだよ?」

「やめたほーがイイんじゃねー」

「このままじゃオレ達、負け犬だぜ!」

他人の復讐して金せびって、それが勝つことなのか? 正直オレは降りたかった。そして頃合いを見計らって言った。

「オレ降りるわ」

3人は冷たい視線を容赦なくオレに向けた。

「まぁ、短い間だったけど世話になったな」

と、自分でもよく意味がわからなかったが、オレはそう言い残して長谷川のアパートを出て行った。
オレ達は別に仲良しこ良しのガキじゃねー。他にツルム奴がいなかっただけだ。フラフラして、テキトーなバイトして、 そこには似たようなバカどもが必ず集まってくるだけのことだ。全くヒマつぶしのソフトみたいなもんだ。 そしてそんな連中が居なくなっても誰も気にかけやしない、と自分に言い聞かせた。

 オレはふとアケミのことを思い出していた。あわよくば、転がり込めないか?などと、ずうずうしいことをその時は考えていた。 アケミの家に電話すると男が出た。

「だれだよ?オマエ?」

ドスの効いた声がした。オレは思わず電話を切ってしまった。
それからコンビニの仕事に出掛け、昼はマンガ喫茶なんかで眠った。 コンビニにはメタルのあとのバイトが入ってきた。サーフィンや車の自慢や試験の話ばかりする、うるさいクソ大学生だった。 そいつのことは5秒でイヤになった。前の奴があまりにも無口だったから、そいつのウルサさが余計に気に障った。 それからそいつの話は全部聞かないことにした。
そして2週間ぐらい過ぎたある日、レジの前に缶コーヒーを持った荒井がいた。

「どーよ?…」

「どーもこーも、ねーよ…」

「ちょっと出れねー…」

オレはそのクソ大学生にレジを任せて外に出た。

「なんか仕事の依頼も増えてるみたいだから、もう1回戻って一緒にやらねー?」

このままコンビニに戻れば、またあのクソ学生のクソおしゃべりが始まるだけだ。それに昼間はマンガ喫茶で寝るか、 デパートの試食コーナーをフラついて、たまにツナ缶とサラミを万引きして、コンビニのクソ店長が恩着せがましくよこす廃棄の サンドイッチと一緒に屋上で食って寝るだけの生活だった。それを思うと、なんだかやり切れなくなった。
そしてオレは、コンビニのシャツをゴミ箱に捨てて、長谷川のアパートに向かった。 そこにはいつもの奴らがみんな揃って、すでに酒盛りをしていた。何の違和感も感傷もなく、オレもごく自然に酒盛りに加わった。 そしていつの間にか眠ってしまった。荒井の声で目が覚めた。

「じゃ、そろそろ行こうか」

例のジャッキーが盗んできたバンに乗ると、黒いビニール袋が二つ転がってた。

「なんか臭せーな」

みんながクスクスと笑い出した。
閑静な住宅街の家の前にたどり着いた。人通りは昼間なのに恐ろしく少なかった。 荒井がみんなにマスクを配り出した。

「夕方、こいつら帰ってくるから、その前に片付けねーとな。ジャッキー見回り行ってきて」

なんのことかわからないオレは

「とりあえず、どーすんの?」

と聞いた。

「んじゃ、黒いゴミ袋持ってきて」

にしても臭せーな!これ…。長谷川はゴミ袋をあけると、塀の上からドバドバとそれを落とし始めた。 そこには犬らしき物の、手やら足やら血まみれの内臓やら頭などがゴロゴロと転がった。オレは思わず吐きそうになった。 そして手早くことを終えると、またバンは走り出した。

「びっくりしたか?」

「まぁ、びっくりしたっつーか…」

「200万なら安いもんだろ?」

その後、他の連中は『ゴッドファーザー』で馬の頭がベッドの中に入っていたシーンと比較したりして、しばし盛り上がっていた。 2週間見ない間に、こんなことになっていたのか…。オレは愕然とした。

「気にすんなよ。あの犬、オレ達よりイイもん食ってたんだろうから、きっと今頃、極楽浄土だよ」

荒井はそう言って笑った。そしてジャッキー以外はみな仕事を辞めていた。そのジャッキーも現場には行かずに、 ペルシャ絨毯なんかを輸入して安く売って儲けているらしかった。

「そういやー、田中と松田は?」

「あー、あいつらウルセーからクビにした。しかも松田のバカ、売上げごまかそーとしてさー、とりあえずシメて追い出したよ。 まぁ、あいつのおかげで、パソコンのノウハウはちょっとわかったけどなー…」

「200万つーのは?」

「おー、そうだった!」

 それからジャッキー抜きで、風俗のハシゴをした。高級ソープ店に入りスケベ椅子に座りながらも、 オレは昼間のやり方も金の取り分も府に落ちなかった。それも最初の5分ぐらいのことで、マットプレーになると、 もうどーでもよくなってしまった。店から出ると荒井が言った。

「もう1軒行くか?」

「いや、もう帰って寝るわ」

「そっか。んじゃ」

それから荒井と長谷川は夜の街に消えていった。
オレはあいつらの考えていることが、さっぱりわからなくなっていた。確かにバカで何の取り柄もない連中だが、 少なくとも前は“人の良さ”のようなものは感じられたはずだ。
帰って寝ようとするが、その夜はどうにも寝付けなかった。 夜中になると泥酔しきった長谷川と荒井が帰ってきて、そのまま玄関と便所で眠ってしまった。オレも仕方なく眠った。

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この物語について 作者について 携帯電話への配信申し込み
第1話:空中都市 第6話:新宿とタモリ 第11話:キャビアとオロC 第16話:田中と松田 第21話:一本でもニンジン
第2話:ポークソテー結婚式 第7話:どらえもんと妄想 第12話:被疑者確保 第17話:ライブハウス 第22話:おでんとホモ
第3話:死ね!アルゼ 第8話:長谷川とバスガイド 第13話:演説 第18話:打ち上げ 第23話:火星のキョンキョン
第4話:テレアポとボルト 第9話:クリスマス 第14話:客 第19話:ラブホとリベンジ 第24話:スタンガンでさらば
第5話:馬糞ウニとジャッキー 第10話:研修初日と演歌 第15話:ストーカーとオヤジ 第20話:エスカレート 第25話:ラン・ラビット・ラン