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(現実)
最近は引きこもりといってもイイくらい部屋にいた。(まぁ面接は受けていたけど…)
何ヶ月も雨戸は閉めきったままだった。その上の小窓には日が差し込まないようにダンボールをふさいでいた。
それでも外気が恋しくなったのか、散歩に出掛けた。雲こそあったが外は良く晴れていた。
目を細めなければ直視できない太陽、青い空、深呼吸すると、肺の中まで新鮮な空気が入ってきた。それはそれで、なかなかイイもんだった。
「まぁ、引きこもりと言っても、外に出ると金が掛かるから部屋にいただけの話しだ。人と接するのも別に苦痛ではないさ」
と自分には言い聞かせていた。
そして近所のネコと遊んだ。人なっつこい金髪のネコだった。オレがしゃがむとネコは体を擦りつけオレの回りをグルグルと回りだした。
そして、仰向けになってゴロゴロとノドを鳴らしてから伸びをした。すっかり安心しているようだった。コンビニでネコ缶を買って食わせた。
それをあっという間にペロリと平らげた。オレはそのネコにドラえもんと命名した。なんてったってネコ型ロボットだ!
「よしっ!今日からオマエはドラえもんだ!」
「ニャー」
良く動物と話ができたら、なんて奴がいるけど、オレは全くそうは思わない。なぜだろう? 多分そしたら人間といっしょだ。
違うのは形と勤務態度ぐらいだろう。 …ドラえもんは金玉がブラブラしていた。他のネコの敵らしき?やつと目があったのか、
ものすごい勢いで走り去って行った。ヤンチャなオスネコのようだった。オレは少し満足して帰ってくると留守電に3件着信があった。
ローン会社とNTTとプロバイダー料金の未払いの催促だった。そのどれもがイヤな声の女達だった。そいつらの性格、
さっき食った昼飯、好きなタレント、年収、そして男がいるならそいつらのタイプ、ガキがいるならそいつらの未来まで解るような気がした。
そして、次に掛かってきたひとつの電話に出てしまった。
「明日かあさってまでに振り込んでください!」
「それは、ちょっと…」
「じゃ来月の4日に来月分もまとめてお願いします!」
「15日てーのは、どうですか?」
「無理です!」
その後ゴチャ、ゴチャ永遠続く…。
「わかりましたよ、来月4日に払います」
ガチャンと電話を切った。
みんな死んじまえばイイのにと思った。
それから読みかけの小説を15ページほど読んで、あまりに長い性描写だったのでウンザリしてしまった。彼の巨大なロケットに乗って、
私は広大な宇宙を彷徨うとかなんとか…。スケベなメスの生態をゴチャ、ゴチャ、クチャ、クチャこれでもか!これでもか!
といわんばかりに書いてあった。早えー話がポコチンがマンコに入ってイッたんだろ? それが単にアンタのタイプだったんだろ?えー!?
ふと思い出したのは小学校の時に神社に捨ててあった近代映画やスコラを隠れてみんなで回し読みした時のことだった。
そっちの方がまだ崇高なんじゃないか? オレにとってのエロスの原点という気がした。(ウソだけど…)
おもむろにギターを手にした。Aメロしか出来てない曲が2曲あった。結局Aメロを引き終えると、その次には何にも出てこなかった。
それも別に大した曲じゃないんだ。自分でも意味のわからないような歌詞をテキトーに書いてレッチリとスマパンと
ニルヴァーナを足して3で割って100引いたような曲だ。ゼロだ。何も無いのといっしょだ。無意味だ。
ギターを置いてメールのチェックをした。
転職のチャンスなんて書いてあった。【在宅で出来るホクホクの復収入「サイドビジネス」】とか書いてあった。
前にもその手の会社に電話したことがあったが、最初に教材だか権利だか保険だかで50万とか60万払わなくちゃいけない、
そしたら仕事を紹介すると…。早い話が詐欺だ!アホらしい。
ドラえもんのようにゴロリとオレは寝転がった。タバコも無かった。
仕方なく、いくらかまともなシケモクを探して火を点けた。マージャンゲームをやりながら、ビートルズのアビーロードを聞いた。
マージャンはあえてタンヤオとピンフだけを作った。
乾いたスポンジが水をよく吸うように、アビーロードはオレの体に自然に染み込んできた。そして、
そのスポンジがもう水を吸い込めなくなると、オレは、なぜだか泣いていた。
(空中都市)
やれやれ残業か。金が稼げてうれしい、なんてトーシロ考えでっせダンナ! とっと帰ってフロでも浸かって一杯やりたいっつーのが
人の心、違いますか? 冬の工事現場は恐ろしく寒くてMA1とジーンズと軍手の隙間から寒さが染み込んで、骨の髄まで届くんじゃないか?
というような大げさな物だった。
オレはイロイロ考えるのは止めようと思った。そうだ!暖かい国の楽しいことでも考えよう! そして出た結論は
ブラジルのリオのカーニバルだった。
誰もがティンバレスを打ち鳴らして何日も街をも練り歩く、あのカーニバルだ! 口から泡を吐こーと、老人がくたばろーと、
犬が踏みつけられようが、世界のどこかで難民が何万人いよーが裸で打楽器を打ち鳴らす、あの狂おしい祭りだ! オレたちは自由だ!
オレたちは人間だ! 機械でも奴隷でもない! ここはフリーダムだ! オレたちには踊る権利がある! そんなカーニバルは頭の中で
午後7時くらいまでは続いた。しかし、いかんせん、そんなもんテレビで見ただけなのでネタも尽きた。
次に自分が売れているアーティストという設定でインタビューに答える。という想像をしてみた。
「今回リリースしたアルバムについて聞きたいんだけど」
「ハイ」
「なんか前回のマキシから勢いが出てきたっていうか、凄いことになってきてるんだけど、自分達ではどー思ってるの? その辺のこと」
「そうだね、まぁ、あまり自覚はないんだけど今回のアルバムはモチーフ自体は前からあったんだけど…。
何より集中してやれたしね。なんか、こードップリといってるね、最近オレ達…」
「歌詞についてもちょっと聞きたいんだけど、2曲目のサビで『オレはオマエのオロナイン!
痛んだハートに擦り込んで! オマエはオレのプロテイン! 泣いて喜ぶ乳酸菌!』なんてところホント凄いね! 深層心理をついてるっていうか…。
オレすげー、シビレれちゃったよ!」
「ありがとう。でも歌詞は天からの贈り物だから、ひたすらそれが降ってくるのを待つ…っていう感じかなー…」
「サウンドの方も、かなりパワーアップしてるみたいだけど機材とかスタジオとか変えたの?」
「なんにも変わってないよ。マスタリングも今までといっしょだし。同じ機材でも気分によって音が違うんだ。
生き物みたいなもんだよ。まぁオレたちのテンションがそーさせたのかもしれないね…」
「じゃ、最後にこれを読んでいるファンのみんなにメッセージをお願いします」
「オーケー! 夏にイベントやるからよろしく! アルバムのほうもバッチリだから必ずチェックしてくれ! あと最後にもう一つ。全員くたばれ!」
「今日は、どうもありがとう」
といって、その想像上のあまりにも虚しくバカバカしいインタビューは終了した。
これはやはり、もう少し現実的にならなくては、と思い高校の時に行ったエアロスミスin武道館のことを考えた。
通路にまで出て、無理矢理前に押しかけて見たあのコンサートだ! スティーブン・タイラーの腕が、ジョー・ペリーの首に巻きついて、
長いインド風マフラーが何度もヒラヒラとした。そしてアンコールの『ウォーク・ディス・ウェイ』が6回ぐらい頭の中で掛かるころ、
仕事はやっと終わった。時計の針は既に10時を回っていた。
帰り道。オレらはまた愚痴っていた。
「ほんと、あのおっさん、やりすぎだぜ!」
「あー(アー)」
アイスクリーム屋も閉まっていた。もう開いてても食わないが…。
「やっぱこんな日はオデンに限るねー」
といってスーパーで期限切れ間近かのおでんパック500円というのを見つけ、オレのアパートで荒井とジャッキーで、
たらふくおでんを食って、酒もたらふく飲んで雑寝した。何をしゃべったかは、全部忘れた。
ひどい二日酔いと共に起きると、ジャッキーはすでに裸で寒風摩擦していた。吐き気もするし頭もガンガンする。
おまけに昨日の残業で体中が筋肉痛だった。行きたくねーな、と思いつつもジャッキーは仕事の用意をしてるし…。まぁ仕方ねー。途中公園の脇で荒井が
「オエーオエー」
と吐いていた。それを見ていたオレもえずいてきて、俗に言う貰いゲロ状態になった。ジャッキーがポカリスエットを持ってきてくれた。
それを飲んでオレと荒井は心ゆくまで吐いた。自転車に乗っている女子高生が、それを見て笑っていた。オレたちもそれを見て、
何故だか笑い返したら「キモイ」と大声で言われた。
やっとの思いで現場に着くとラジオ体操は終わっていた。
そして、また新入りが入ったようだった…。
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